技能実習生のこと
私がいまいる工場は、従業員としてベトナム人が8割(いや9割かもしれない)を占めています。まるで自分の方が異国にいるかのようです。
彼らの年齢は、18〜21歳。
いわゆる技能実習生です。
仕事の合間に少しだけ話をしたメイさん(仮名)。彼女は3人姉妹の長女で、現在20歳。実習生2年目です。
「ひゃくまん、です」
「……? 100万円、貯めますか?」
(↑彼女が分かる日本語を目指して、私が変な日本語。)
「……? ハイ……(?)」
ああこりゃお互いに言ってる意味が分からんな。
1年で100万もらえる(給与?)とかいう契約なのか、100万貯めたいのだという目標を語ったのか。
「100万」は何にかかっているのか分からず、その日の夜、ネットでいくつか調べてみました。
ベトナムの技能実習生の多くは、地方に住む、あまり暮らしが豊かではない家庭の出身のようです。高校を卒業した後、こうして日本にやってきます。
日本に来る前は、当然日本の言葉も文化もマナーも知りません。
そこで、「日本のことを学ぶ施設」に入り、3か月間の訓練をします。同じ目的を持つ生徒たちが集団生活をし、基本的な日本語と基本的なマナーを学ぶのだそうです。
「この施設」に入るために、75~100万かかるのだそうです。両親は、友人や親戚など借りられるところから借りてそのお金を準備し、子どもをその施設に入れる(=日本へ行かせる)のです。
メイさんは「100万かけて日本に来ました」という感じの意味で言ったのだと分かりました。
100万の借金をしてまで、日本へ働きに出るのは何故なのか。
彼らは、日本の地方のコンビニや書店くらいの、つまり最低賃金レベルで雇用されています。
メイさんに直接は聞けませんでしたが、おそらく彼女も時給800円前後であろうと予想されます。
ひと月の収入から引かれるものを全部引いてみると、手元に残るのは8~9万円。3年間の滞在のうち、最初の1年で借金を返し終わります。
残りが「貯める2年」。ここで200万と少し貯まります。ただこれはごく普通に日勤をした場合のみの計算です。プラス、残業をすればするほど、夜勤や休日出勤に入れば入るほど、貯まっていきます。ですので、このへんは個人差でしょう。
そうして彼らが自国に戻る頃には、借金は完済し、その上で250万ほどの金額を持って帰ることになります。
ベトナムで250万というと、家を建てられたり、店を構えることもできるレベルだそうです。
(これは、250万で「両方」叶うのか、片方のみ叶うのか、ちょっと調べたことでは分かりませんでした。)
それを夢見て、異国へ出稼ぎに。
夢の対価は、非情です。
小さなアパートの1室に実習生5人で住んでいるというメイさん。他の実習生も同じような感じで、詰め込まれた感じです。同郷同士で寂しくない、諸費用の節約にもなる。そう言われればメリットに聞こえますが、雑魚寝、プライバシーなどあってないようなものです。
自分たちでお弁当を作ってきています。といっても、白米を詰めて、隅っこにちょっとしたおかずらしきものが添えられている程度。
派遣の特権である「56円の弁当」は彼らには適用されないのか、それとも適用されているけれど口に合わないので嫌なのか、はたまた56円もチリツモで貯蓄に回しているのか。
情報がないわけではありません。
ベトナムにもネット環境は普及しているし、先に行った先輩たちの生の声も聴いているでしょう。仕事の過酷さ、生活の不便さ、置かれた環境の理不尽さ。
それでも、3年間仕事をしさえすれば、自国で安定した暮らしができるのです。
それが一時的なのか、生涯なのかは分かりません。
私の部署で製造を任されているドンさん(仮名)も、メイさんと同じグループで日本に来た1人です。来年の10月に自国へ戻ることになっています。あと1年と少し。
メイさんは「残業ヤダー」「ヨルキンもヤダー」と言っていますが、ドンさんは男性で、やはり「家族を支える」みたいな意識が強いのか、毎日残業しています。休日出勤もします。
身体は大丈夫ですかと聞いたら、曖昧な笑みで
「お金、あります」
と返ってきました。
「残業(休日)手当で、収入が増えますから」と解釈しました。大きく外れてはいないと思います。
技能実習生制度に対して是も否も問えないし、問うべき立場でもありません。
だから、とりあえず私はベトナム語で「こんにちは」だけを覚えることにしました。
「xin chao!」と話しかけたときのメイさんのポカン面。愉快でした。
そのあとの笑顔も、可愛かったです。